Fill the Ocean with a Single Drop『大海を一滴で埋めよ』|第十五話『一か八か』2025年4月25日
第十五話『一か八か』
このドラマは、対馬水産による新規プロジェクトをユーモアとリアリティを交えて描くノンフィクション・シリーズです。
商品の到着が間に合わず商談が一度は失注する中、対馬水産は注文のないまま荷受けに在庫を預け、荷受けと共に仲買との商談成立に賭ける。
2025年4月25日【Zoom会議:大阪営業本部】

【参加者】
営業所:塚口部長、児島
Zoom:長谷川(東京)
Zoom:田中工場長(長崎県 対馬)
──朝、会議室
(重苦しい沈黙が漂う会議室。長谷川が深呼吸し、口を開く。) 
長谷川
『塚口部長、申し訳ありません。
カナダ側からのオファーがあり、月曜朝一番の便で空輸したいとの要望がありました。
そのため、荷受けを後回しにし、直接冷凍穴子を月曜朝9時までに豊洲の売場に届けるよう手配しましたが、ヤマト便では午前中指定しかできず、日曜は休業のため前日配送も叶わず……結果、失注となってしまいました。』
(沈黙が落ちる。)
塚口部長
「……それは、最初から予測できたはずだ。
彼らの朝は早い。9時までに商品が届かなければ、羽田への空輸便には乗せられない。
対馬からのヤマト宅急便では、午前中という時間指定しかできない。
前夜届けようにも、日曜日は休み。
──つまり、このビジネスモデルを成功させるには、荷受けに冷凍ストックを持ってもらうしか方法はないんだ。」
児島
「仲買に面倒くさいと思われたら、話は前には進まないな。
仲買が動かなければ荷受けも動かず、荷受けが動かなければ仲買も動かない……。」
長谷川(肩を落としながら)
『……すみません。急ぎすぎました。考えが甘かったです。』
児島(焦り気味に)
「でもこのままだと……。今すぐ豊洲に行った方がいいのでは?」
塚口部長
「いや、まずは荷受けだ。
今から行っても、結果は変わらん。
──『大手仲買が興味を持っている』と荷受けに伝えてみろ。
荷受けが動けば、必ずチャンスはあるはずだ。」
児島(勢いよく立ち上がる)
「わかりました!すぐに電話してきます!」 
(児島、スマホを手に廊下へ駆け出す。)
⸻
(数分後、息を切らして戻ってくる。)
児島(顔を輝かせながら)
「部長!荷受け、乗ってきました!
ただ……渋っていました。
『今の段階で在庫を持つリスクは保証できない』と……。
でも今回は、預かりで月曜朝一に仲買に届けてくれるそうです!」
(ピリリとした空気が室内を走る。)
塚口部長(静かに頷き)
「よし、長谷川、すぐ仲買へ連絡だ。」
長谷川(苦い表情で)
『それが、何度かけても出てくれません。』
児島(食い下がるように)
「でも!今日対馬から出荷すれば、2日後の日曜には荷受け到着します。
うまくいけば、月曜朝9時には、確実に仲買へ渡せます!」
長谷川
『──一か八か、進めますか?』
塚口部長(迷いなく)
「ああ。
荷受けと仲買は、古い付き合いだ。
日曜は連絡もつかない。
月曜朝一、荷受けに託すしかない。」
塚口部長(すばやく指示)
「田中工場長、至急出荷準備だ。」
田中工場長(力強く)
『任せてください!必ず間に合わせます!』
長谷川(苦悩しながら)
『……でも、現時点で仲買は『買う』とは言っていません。
もし勝手に送ったら、怒らせるかも……。』
塚口部長(低い声で)
「──覚悟の上だ。
今は、荷受けに賭けるしかない。
長谷川、月曜朝、荷受けに合流して、仲買を口説き落としてこい。」
長谷川(強く頷き、拳を握る)
『はい!必ずまとめてきます!』
塚口部長(言葉を選びながら、静かに)
「あの荷受けが『在庫を持つ』と言えば、仲買も必ず動く。
そしてその波紋は──豊洲全体に広がる。
この一滴が、大海を動かすはずだ。
──絶対に、成功させろ。」
長谷川
『はい!』
⸻
(場の空気がわずかに緩む。)
塚口部長
「……ところで、来週月曜日から大阪万博だな。
児島、準備はできているか?」
児島(ニヤリと笑いながら)
「大丈夫じゃないです!(一同、笑)」