Fill the Ocean with a Single Drop『大海を一滴で埋めよ』|第九話『手紙』2025年4月5日
第九話『手紙』
このドラマは、現在進行中の対馬水産による新規プロジェクトをユーモアとリアリティを交えて描くノンフィクション・シリーズです。
成功するかどうかは、まだ誰にもわからない——。
だからこそ面白い“いまこの瞬間”を、お楽しみください。
2025年4月5日【大阪営業所の会議室】

【参加者】
営業所:塚口、児島
Zoom:長谷川(東京)
Zoom:田中工場長(長崎県 対馬)
(朝。会議室に柔らかな陽が差し込む。テーブルには「相互関税24%」の新聞見出しと資料が広がっている)
児島
(緊張を押し殺しながらも、目に決意を宿して)
「塚口部長……まずは豊洲の仲買に、手紙を送ってみようと思っています。
そのあとで、メール、テレアポと順を追ってアプローチしていくつもりです。」
塚口部長
(腕を組み、ゆっくりうなずく)
「……手紙か。うん、悪くないな。
今どきメールは埋もれがちやが、あの世代の仲買なら紙の手紙には目を通すやろう。」
(ふっと笑みを浮かべ)
「で、内容は?」
児島
「件名は「対馬金穴子『冷凍・凍眠』無償サンプルのご案内」で考えています。
試していただければ、違いは伝わると思います。
ジャパンフードセレクションのグランプリ受賞チラシと、
世界基準の施設認定付きの規格書も同封します。」
塚口部長
「よし、すぐに送れ。」
長谷川(Zoom越し)
『反応があれば、すぐに豊洲にサンプルを持って直接伺います。
田中工場長、新宿オフィスにもサンプルを手配いただけますか?
それと、手紙はA4の厚紙で印刷して、“ちゃんとしてる感”を出した方がいいですね。』
田中工場長(Zoom越し)
『了解。サンプルの数は後でメールで教えて。
(にっこりと)今朝締めたばかりの上物を回すよ。』
(Zoom越しに工場の活気ある音がかすかに聞こえる)
児島
(小さくガッツポーズ)
「ありがとうございます……絶対、動かしてみせます!」
塚口部長
「他に何か質問は?」
田中工場長
『……一つ気になるのは、やっぱり今回の「解凍してから輸出する」というやり方です。
普通に考えたら、冷凍で送って、レストランで解凍した方が鮮度も品質も良さそうに思われるんじゃないかと。
実際、これまではずっと冷凍(船便)でやってきたし、コスト的にも有利だったしね。』
長谷川
『そこが今回の“キモ”なんです。
我々が狙っているのは、「冷蔵=チルド」の鮮魚商流に乗せること。
世界中の高級魚ルートでは、冷凍対応のインフラを持たない仲買・ディストリビューターが多いんです。
だから“冷凍は嫌”なんじゃなくて、“扱えない”んです。
それに、海外の高級レストランって意外と冷凍庫が小さかったり、
解凍ノウハウがなくて、品質を落としてしまうリスクもあります。』
塚口部長
「我々が目指してる“大海”ってのは、
まさにジャパンクオリティーが流れる空輸の鮮魚商流や。
そこに落とす“一滴”が――
真空パックされた、高品質な解凍魚ってわけやな。」
児島
(はっとした顔で)
「……なるほど。そういうことだったんですね。」
長谷川
(少し呆れて)
『えっ……今、気づいたんですか?』
(一同笑い出す。児島は苦笑い、田中工場長はまだ少し腑に落ちない表情を残しつつも、静かにうなずく)