Fill the Ocean with a Single Drop『大海を一滴で埋めよ』|第五話:「2、3日の壁」2025年4月4日

第五話:「2、3日の壁」

このドラマは、対馬水産による新規プロジェクトをユーモアとリアリティを交えて描くノンフィクション・シリーズです。

鮮度劣化の早い穴子の弱点を逆手に取り、活け〆・真空パック・チルド輸送による賞味期限の優位性で攻め込む。

2025年4月4日【大阪・対馬水産 営業本部 会議室】

参加者
 営業所:塚口、児島
 Zoom:長谷川(東京)

児島
「塚口部長、昨日サンプルをお渡しした仲買から、うれしい反応が続々と届いています!」

仲買A(手紙)
「昨日は弊社までお越しいただき、ありがとうございました。
魅力的なお話ばかりで、今後の販路拡大に大きな可能性を感じました。
いただいたアナゴの切り身は、早速試食させていただきました。
ベトナム展開を見据え、弊社のベトナム人スタッフにも食べてもらいましたが、
“非常に美味しい”との感想でした。(味付けなしの素焼きで試食)」

仲買B(手紙)
「昨日はありがとうございました。
サンプルについてですが、鮮度が素晴らしく、作り手のこだわりを強く感じました。
香りも良くて、もっと食べたくなる味でした。
なお、バルセロナの展示会には5月2日の便で出発予定です。
資料を確認のうえ、近日中にサンプルの依頼をさせていただきます。」

塚口部長
「“続々”って言っても、昨日の2社だけじゃないか。」

長谷川
『でも、今回初めて訪問した仲買3社のうち、2社からポジティブな反応ですよ!
しかも、残る1社も来週火曜日に再商談のアポイントが取れました。』

児島
「来週は荷受けは後回し。仲買に狙いを定めて、もう一度豊洲に行きます。
正直、今度こそ手応えをつかみたいんです。リベンジですね。」

塚口部長
「で、どうやってアポ取るんだ?」

児島
「……(苦笑いしながら沈黙)」

長谷川
『なんとか……知り合いのツテをたどってみます!』

塚口部長
「豊洲市場にはな、昔から巨大な穴子の活魚水槽があるんだ。
そこでセリをしている仲買もいて、朝締めして、そのままお店に運ばれ、夜には料理で提供されている

いわゆる“江戸前穴子”の世界だよ。
しかも、その流れは、今や海外でも通用するレベルになってる。」

長谷川
『ということは……朝締めの穴子が、その日の夕方には海外のレストランに並んでるってことですか?』

塚口部長
「その通り。穴子に限らず、豊洲からは鮮魚がどんどん海外に出ていってる。」

長谷川
『……ってことは、私たちが入る隙間なんて、もう残ってないってことですか?』

児島
「いや、それが一概には言えないんですよ。

鮮魚には、鮮魚ならではの弱点がある。
最大の壁は、賞味期限と廃棄リスク。
特に穴子は足が速い、次の日には鮮度がかなり落ちているんだ
国によっては、レストランに届くまでに2~3日かかることもあるんです。」

長谷川
『なるほど……
でも、対馬水産のモデル——ブランド穴子、活け締め、真空パック、チルド輸送——なら、
その“2、3日の壁”を乗り越えられるってことですよね?』

塚口部長
「その通りだ。
その“たった2、3日の壁”が、現地のレストランにとっては天と地ほどの差になるんだ」

児島
「しかも、うちはEU HACCP、アメリカのHACCP、ベトナムの施設認定、そしてハラールまで対応済み。
言ってみれば、世界各国への「通行証」は、すでに手に入れている状態です。」

長谷川
『……チャンスは、確かにありますね。

でもそもそも、なんで各国はあんなにややこしい施設認定を作るんですか?
もうちょっとシンプルでもいいのに……』

塚口部長
「それはな、トランプ大統領が言ってた「非関税障壁」って考え方と同じだ。

ようするに、自国の産業を守るために、品質基準って名の“関所”をつくってるわけ。」

長谷川
『なるほど……
じゃあ、対馬水産はその“関所”「非関税障壁」を、突破してきたってことなんですね?』

塚口部長
「まあ、そういうことになるな。」

児島
「恐るべし……対馬水産。」

長谷川
『ところで、塚口部長。非関税障壁といえば、トランプ大統領の言う、相互関税24%からの株の大暴落
新NISA買ってましたよね、大丈夫なんですか?』

塚口部長
「……それを言うな。」

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