Fill the Ocean with a Single Drop『大海を一滴で埋めよ』|第四話:「食べてみてください」2025年4月3日
第四話:「食べてみてください」
このドラマは、対馬水産による新規プロジェクトをユーモアとリアリティを交えて描くノンフィクション・シリーズです。
冷凍穴子を解凍・チルド状態で持ち込み、仲買に試食提案を仕掛ける。
2025年4月3日【大阪・魚市場 仲買店舗にて】

【登場人物】
対馬水産:塚口部長・児島
豊洲の冷凍部門担当者:尾道※
※尾道は、かつて塚口が国産冷凍煮穴子を提案したが、中国産の安価な煮穴子に太刀打ちできず、相手にされなかった相手。
塚口
「ご無沙汰しております。」
尾道
「おお、久しぶりやな。今日はなんや、また穴子の話か?」
塚口
「はい、以前は冷凍煮穴子の提案でお時間いただきましたが……
今回はまったく別の、新しいご提案がありまして。
毎週、鮮魚を海外に出荷されていると伺い、ご挨拶も兼ねてお伺いしました。
ちなみに、どのような国に輸出されてるんですか?」
尾道
「東南アジアやな。タイ、シンガポール、香港あたりや。
輸出に面倒な手続きがない国に、チルドも冷凍も出してるで。」
塚口
「前日に注文を受けて、朝にピックアップ、関空から出荷。
夕方にはタイに到着して、その夜にはレストランで提供される――
そんな流れでしょうか?」
尾道
「まあ、だいたいそんなもんやな。」
尾道
「……で? 忙しいんやけど、今日は何の提案や?」
児島
「お忙しいところすみません。
今回は、今までにない新しいビジネスモデルのご提案です。
対馬近海で獲れたブランド穴子を活けジメし、真空パック、アルコール凍結でストック。
そして、注文を受けてから日本国内で解凍し、チルドで空輸するという流れです。
今日お持ちしたのは、その試食サンプルです。
もし品質にご納得いただけましたら、御社の海外出荷便にサンプルとして混載していただき、
現地の反応も見ていただけたらと思っています。」
尾道
「ふん……
冷凍を解凍して空輸した魚なんて、ほんまに売れるんか?」
塚口
「本日お持ちした穴子は、今朝、冷凍庫から取り出してチルド状態に戻したものです。
そのまま冷蔵庫で保管していただいて、今晩にでも白焼きでお試しください。
塩と山葵だけで、素材のポテンシャルを感じていただけると思います。」
尾道
「そやけど
そんなややこしいことせんでも、活けジメした対馬産の穴子を、そのまま鮮魚で空輸したらええんちゃうんか?
そっちの方が価値あるやろ。」
児島
「おっしゃる通りです。
ただ、穴子はとにかく足が早い魚で、時間が経てばすぐに臭みが出ます。
日本でも、美味しい、白焼きや天ぷらを提供できるのは、活魚を朝に活けジメにして、当日使えるような、限られた店だけです。
この“鮮度の壁”こそが、海外で煮穴子以外の穴子料理が広まらなかった理由です。
でも弊社の真空パック・チルド穴子なら、現地でも臭みなく、白焼きや天ぷらの提供可能となります。
現地レストランでも必ず、他店との差別化につながるはずです。」
尾道
「……ふん。まあ、そこまで言うんなら、今晩食べてみるわ。
で、キロいくらや?」
児島
「キロあたり5,000円です。」
尾道
「高っ! 冷凍でその値段はないやろ!」
児島
「いえ、これは活けジメして真空パックにした『チルドの対馬産穴子』です(笑)
価格ではなく、『品質』で勝負したいと思っています。
ちなみに、対馬産の活魚の穴子の今朝の浜値は、キロ2,500円でした。
ぜひ、お好みで――
塩、醤油、山葵で、食べてみてください。」