Fill the Ocean with a Single Drop『大海を一滴で埋めよ』|第十三話『プライド』2025年4月19日

第十三話『プライド』

このドラマは、対馬水産による新規プロジェクトをユーモアとリアリティを交えて描くノンフィクション・シリーズです。

豊洲仲買の売場で必死に説明し、ついにサンプル手渡しに成功。

2025年4月19日【Zoom会議:大阪営業本部】

参加者
 営業所:児島
 Zoom:長谷川(東京)
 Zoom:田中工場長(長崎県 対馬)

児島
「おはようございます。
豊洲の仲買への営業、お疲れ様でした。」

長谷川
『ありがとうございます。
なんとか、我々の思いは伝わったと思います。サンプルも手渡せました。』

児島
「あれ? 塚口部長は?」

長谷川
『毎週土曜は、病院で血圧の薬をもらってるそうです。』

児島
「タバコが原因だな。やめればいいのに。」

長谷川
『一箱1,000円でも、絶対やめませんよ(笑)』

児島
「……それより、仲買の反応は?」

長谷川
『我々の「大海」=チルド空輸ルートの意図は伝わったと思います。
ただ、大手仲買には冷凍部門もあるので、そちらに回される可能性もあります。』

児島
「もちろん、現地で解凍して高級店に届けられるなら、冷凍の方がコスパはいい。
でも今回の商流は、“冷凍物流のないディストリビューター”から高級レストラン直行ルートだ。
そのルートに、乗せられそうか?」

長谷川
「はい。提案の趣旨はしっかり伝わりました。
ただ、相手にとっても未知のやり方、まだ今は見えない壁はあると思います。」

児島
「……なるほどな。」

長谷川
『ちなみに豊洲の仲買は、
① 各国の高級レストランから1尾単位で注文を受け、
② 活魚や高鮮度魚を選別・梱包し、
③ その日のうちにチルド空輸で出荷する——
という流れで、圧倒的な信頼を築いています。

彼らが最も重視しているのは、「他には真似できない品質の安定供給」。
それこそが、彼ら自身の**“プライド”**なんです。

だからこそ、我々の商品がその領域に踏み込むことは、
単純に歓迎されるものではないかもしれません。』

児島
「なるほどな……
でも扱ってる魚、全部がAランクってわけでもないんだろ?」

長谷川
『児島さん、さすが鋭い!
そこが、わたし達の狙い目だと思います。

実際、穴子の開きだけでもA〜Dランクまであり、
国や顧客によって使い分けているようでした。

我々の「高品質真空パック・チルド」なら、
Sランク(=Special)として勝負できるかもしれません(笑)』

児島(苦笑)
「そのポジティブ、いいな。で、次の一手は?」

長谷川
『うまく行けば、次は海外の高級レストランへのサンプル発送だと思います。
もし「冷凍で送ってくれ」と言われたら、冷凍部門の量販店ルートに流れる可能性があります。』

(田中工場長に向かって)
『田中工場長、新宿事務所に1尾ずつ真空パック冷凍したサンプルを20尾ほど送っていただけますか?
要望があれば、こちらで解凍してから鮮魚部隊に手渡します。
再冷凍厳禁と言う事で。』

児島
「なるほど、チルドで持ち込めば、鮮魚部隊しか扱えない。
でも空輸前日じゃないと品質が持たないぞ?」

長谷川
『はい。そこは徹底して対応します。』

田中工場長
「でもさ、向こうが「冷凍で送ってくれ」って言ってきたのに、チルドで持って行って大丈夫なの?」

長谷川
『大丈夫ではないです!(笑)』

(一同、笑い)

長谷川(微笑しながら)
『もちろん、きちんと説明したうえで届けますよ。
——我々の“プライド”を込めて。』