Fill the Ocean with a Single Drop『大海を一滴で埋めよ』|第二十四話『混合食品』
このドラマは、対馬水産による新規プロジェクトをユーモアとリアリティを交えて描くノンフィクション・シリーズです。
いよいよ、冷凍食品として海外への輸出がみえてきたーー
8月25日 朝 会議室にて

【参加者】
営業所:塚口部長、児島(営業)
対馬工場:長谷川(営業・開発)、田中工場長
(机の上には名刺の山とサンプル出荷リスト。空調音だけが響く)
田中工場長
「営業のみんな。8月前半に出荷した穴子寿司と穴子飯――着荷確認は?」
児島
「ほとんど確認できました。」
田中工場長
「それで、感想は?」
児島
「……お盆で忙しくて、まだ食べてないそうです。」
田中工場長(苛立ち)
「え? それで確認したって言えるのか?」
児島
「“届いた”とは言ってました。……ただ休み中でして。」
田中工場長(ため息)
「……もういい。
それより――先週の東京ビッグサイト、シーフードショーの試食の反応は?」

長谷川
「今までで一番の反響でした。派遣部隊も応援に入り、名刺も山ほど集まりました。」
田中工場長(前のめり)
「よし! お客様の声は?」
長谷川
「“煮穴子は当然美味しい”“冷凍とは思えない”“酢飯もうまい”“レンジでこのレベルが世界で食べられるのか”――そんな声が多かったです。粒山椒煮も高級感があると好評でした。」
田中工場長
「それで!? それで!?」
長谷川
「ディスプレイも評価されました。壁には通販風のポスター、ショーケースは高級スーパー風。試食コーナーはデパ地下を意識しました。」
児島(苦笑い)
「なんだか……魚屋から、だいぶ離れちまったな。」
(場が少し和む)
塚口部長
「さて。児島君。寿司と穴子飯のEUハセップ、対米ハサップ、ハラール認定は?
次のニューヨーク、マイアミ、ドイツ、そしてマレーシアに――間に合うか?」
児島
「無理です。非関税障壁は簡単じゃない。数か月、長ければ数年かかります。」
(場が静まり返る)
児島
「今年は煮穴子スライスだけで十分でしょう。現地でシャリを合わせれば済みます。スライスなら全認証クリア済みです。」
長谷川(首を横に振る)
「それじゃダメです。“オールJAPAN”で完成させるからこそブランドになるんです。スライスだけじゃ中韓の安価品と同じ土俵です。」
児島
「確かに。今回のショーでも中国産や韓国産が目立っていました。世界中から安価なスライス魚が、日本の回転寿司に売り込まれてきています。」
長谷川
「でも、我々の目指す場所はそこじゃない。」
児島
「とはいえ、寿司の認可は魚以上に難しい。数年かかるかもな。」
塚口部長(低い声で、間を置きながら)
「……いや、そうでもない。我々の煮穴子は“非関税障壁”を越えている。問題は――寿司や穴子飯が“水産物”か、“混合食品”か。分類次第で戦える。」
児島(首をかしげる)
「混合食品……?」
(場がざわつく)
長谷川
「HSコードですね。もし混合食品扱いなら、すでに輸出可能かもしれません。EUなら統一されています。商社に確認します。」
塚口部長
「回転寿司の煮穴子は安価皿。我々はその土俵に立たない。ブランド戦略は小売用パッケージから攻める。」
長谷川
「はい。そのために“ミシュラン二つ星監修”“無添加”“ハラール対応”があるんです。」
塚口部長
「何としても、アメリカ、ドイツ、マレーシア――すべての展示会に間に合わせろ。」
長谷川
「承知しました!」
児島
「……HISコード?」
長谷川
「それ旅行会社!」
(一同爆笑。張りつめた空気が一気に緩む)