Fill the Ocean with a Single Drop『大海を一滴で埋めよ』|第二十二話『3ヶ月』
このドラマは、対馬水産による新規プロジェクトをユーモアとリアリティを交えて描くノンフィクション・シリーズです。
2025年6月25日(水)/対馬水産・本社会議室

(朝。沈黙が支配する会議室。書類をめくる音すら、やけに響く)
塚口部長
「……いよいよ来週か。ニューズウィークの掲載は。」
長谷川
「はい。7月4日、世界59カ国・6言語で配信。読者は約7,500万人です。
どれほどの反響があるか、楽しみですね。
HPも、スタイリッシュにリニューアル済みです。」
塚口部長
「よし。──で、肝心のお米とお酢の件は?」
児島
「お米は佐賀米に決まりました。
関連会社の九州支社の取締役がつないでくれて……とても親身に対応していただけました。」
塚口部長
「それは頼もしいな。……で、お酢は?」
長谷川
「タマノイ酢です。
前回の万博で同じパビリオンに出展していたご縁がありまして、
海外事業部長に相談したところ、海外輸出対応の実績あるお酢を分けていただけることになりました。」
塚口部長
「……やればできるじゃないか。
で、実際にその佐賀米とお酢を使った棒寿司──もう仕上がっているのか?」
長谷川
「はい。
ミシュラン二つ星の『老松ひさ之』のオーナーシェフにも試食していただき、“合格”をいただいています。」
塚口部長
「よし。じゃあ──いよいよサンプル配布だな。」
長谷川
「はい。掲載開始と同時に、一気に攻勢をかけます。
これまでは写真とストーリーによる“仮想プレゼン”でしたが、
ようやく、“本物”で勝負できます。」
児島
「……ただ、注文が増えた場合の生産ライン整備は、課題になりますね。」
塚口部長
「ああ。“ものづくり補助金”の申請は、7月中だったな?」
長谷川
「はい。締切は7月末、結果は3ヶ月後の予定です。
ただ、申請前にある程度の受注が見えてくれば、
1,500万円規模の設備投資について社内の承認が得られそうです。」
塚口部長
「……3ヶ月か。死ぬ気で取りに行くしかないな。」
児島(少し言いよどみながら)
「……もし、不採択になったら?
それに、工場を増設するとなると……?」
塚口部長
「そのときは、今ある設備で対応できる範囲で着実に受注を取り、
“結果”と“将来性”を示すしかない。
それができれば、社内も反対はしないはずだ。」
長谷川(深くうなずく)
「……わかりました。まずは3ヶ月ですね。」
(沈黙。誰もが、それぞれの机に戻り、静かに準備を始めた)
塚口部長
「ニューズウィークがどれだけの効果をもたらすかはわからんが……
備えだけは、万全にしておいてくれ。」
長谷川
「はい。
HPの多言語対応、解凍方法を説明する動画の埋め込み、
問い合わせフォームの整備、法人向け無料サンプルの準備など、すでに着手済みです。」
ナレーション(モノローグ風・締め)
勝負の3ヶ月が、いま始まる。
仮想ではない、“現実の戦場”で。
そして、それぞれの“覚悟”が──
静かに、確かに、動き出していた。